【2023注目の逸材】
こやま・とあ小山翔空
※プレー動画➡こちら
【所属】長野・野沢浅間キングス
【学年】6年
【ポジション】投手兼遊撃手
【主な打順】四番
【投打】右投右打
【身長体重】160㎝48㎏
【好きなプロ野球選手】源田壮亮(西武)/山本由伸(前オリックス)
※2023年12月10日現在
結果として6年生たちの最後の試合となった、ポップアスリートカップの全国ファイナル準決勝。始まる直前に、スタンドとフィールドを分かつフェンス越しではあったものの、保護者と選手たちとで肩を組んで輪になるシーンが印象的だった(下写真)。
その中央で掛け声の音頭をとったのが、背番号10の小山翔空主将だった。
夏の伝統の全国大会。「小学生の甲子園」こと全日本学童大会マクドナルド・トーナメントで、小山は4年時から3年連続でプレーした。2021年は八番・右翼のレギュラーで、1回戦は2点三塁打など勝利に貢献。続く2回戦で敗退も、計5打数3安打の打率6割をマークしている。
野沢少年野球クラブで1年生から野球を始めるきっかけとなったのが、当時のエースで2つ上の兄・碧空(次男)だった。その兄が卒団した翌22年。5年生になった三男坊の小山は、三番・遊撃で夏の全国舞台に戻ってきた。1回戦で敗退も、3番手で全国のマウンドも経験している。
2023年12月9日、初めての神宮のマウンドで3回パーフェクト投球。自己最速も115㎞に更新した
そしてこの2023年。投打二刀流の大黒柱となって、全日本学童2回戦までチームを導いた。1回戦では好投手・高橋隼太(埼玉・泉ホワイトイーグルス)から先制三塁打を放つと、先発したマウンドでは111㎞をマークするなど4回無失点、1安打8奪三振の好投で初戦突破に貢献。打撃戦となった2回戦で敗れたものの、右中間に本塁打を放っている。
「6年間で一番の思い出は、やっぱり今年の夏の全国大会と今日(ポップ杯準決勝)です。夢はプロ野球選手。経験も生かして中学ではもっと良い選手になりたいです」
今夏の全国大会は全23人がベンチ入り(下)。野沢と浅間の各横断幕が並んだ(上)
自身3回目の夏の全国大会は、チームとしては初だった。5年間所属してきた野沢は、昨秋から浅間スポーツ少年団との合同練習を開始。そして新年度から野沢浅間キングスとなって再出発したばかり。浅間のほうも2006年の初出場(3回戦進出)を含めて、全日本学童大会に4回出場の実績がある。合併当初を主将はこう振り返る。
「11月あたりから一緒に練習を始めたんですけど、最初はみんな緊張していて声もぜんぜん出なくて。そこからだんだんとまとまってきて、声も出るように…」
活動は平日の火・木曜と週末の週4日。打ち解けるのが早い子どもに比べて、大人はなかなか難しい面もあるものだが、 野沢に続いて合併チームも率いることになった戸塚大介監督(下写真)は、さして大きな苦労はしなかったと語る。
「ウチ(野沢)も浅間さんも、根本的な部分が一緒でした。基礎をしっかりやって上につながる野球をする。その延長に全国出場がある、という考え方。部員がそれぞれ減ってくる中で、合併するなら相手はここしかないと互いに認め合っていたところがあります」
主にBチームを担うことになった浅間出身の指導陣も含めて、大人も子どもも一枚岩に。それでこそ夏の全国出場が叶い、12月にまた神宮(ポップ杯全国ファイナル)へ戻ってくることもできたのだろう。
夏は神宮での3回戦を前に敗退。ポップ杯(14チームのトーナメント)は全試合が神宮で行われ、小山は個人としても初めてとなる神宮のマウンドで、さらなる進化を示した。
1回戦では自己最速を一気に115㎞まで更新。「バッティングのチーム」(照屋克海監督)という沖縄・具志タイガース打線に対し、5連続三振を含む3回パーフェクト投球で2番手にバトンを托した。
「神宮のマウンドは景色もいいし、とても投げやすくて投げ心地がありました」
5回裏に一挙4得点で栃木・宇都宮ウエストキッズに逆転勝ちした2回戦では、決勝打となる4点目のタイムリーをレフトへ放っている。
三冠王者を追い詰める
「このチームはやっぱり、キャプテンが柱。気持ちが強い子で、プレーでも何でも、よくここまで引っ張ってきてくれたと思います」
そう語る指揮官からの信頼の大きさがうかがえたのが、大会最終日の準決勝だった。相手は夏の全国王者でこの大会も制することになる新家スターズ(大阪)。
0対0で迎えた2回裏に、与四球や内野安打も絡んだピンチからの犠飛で野沢浅間が1失点。さらにカバーリング不足で、2点目も献上してしまう。だが直後の3回表、小山がバットで挽回した。
一死走者なしでカウントは3ボール。ここから迷うことなく2球連続でフルスイング(ファウル)した四番・小山は、続く6球目も強振(上写真)。これがレフトへ70m超えのソロアーチとなって1対2に。
「アウトコースをずっと張っていた中で、インコースに来た球を思い切り振ったら良いところに当たってくれました。投げるのも打つのも好きで、このまま二刀流でいきたいですけど、ノースリーからでも(ストライク球を)振っていけるところが、自分の一番良いところだと思います」
通算本塁打はもう数えていないが、6年間で30本は確実に超えたという。「小山に関しては、3ボールでも『待て』のサインを出したことはないです」(戸塚監督)
「きっかけさえ与えてあげれば、やれる子たち。普段から考えさせる野球をしているので、試合中にベンチの大人がああだこうだはあまり言いません」(戸塚監督)
この四番の一発が王者に重圧を与え、試合を白熱させた。
野沢浅間は2番手で4回裏を無失点で切り抜けた山浦昊悟が、5回表二死から二塁打を放つ。一番・岡部凌は申告敬遠で、二番・関湊仁は四球を選んで一打逆転となる満塁のチャンス。ここで打席には前日の2回戦で同点三塁打を放っていた鷹浦陽翔。結果は左飛で無得点も、新家の快足左翼手でなければ試合がひっくり返っていた可能性もある一打だった。
夏の全日本学童で大会1号を放った岡部は、ポップ杯1回戦で特大の右三塁打。70mは軽く超えていたが2回戦までは外野の打球もフリーで行われた
「みんなと『上に行こう!』と一生懸命に練習してきたから、ここまで来られたと思います。みんなと一緒に野球ができて楽しかったです」
最終的に1対4で敗れ、1年間を振り返る小山主将の目には光るものがあった。悔しさもありつつ、最後までやり切った者ならではの充足感に惜別の念も混じる涙だった。所属チームの消滅という、小学生にとっても小さからぬ出来事をともに乗り越えてきた仲間たちもやはり、多くが泣いていた。
頼もしかった背番号10の目からも最後は涙がこぼれた
「ここまで連れてきてくれた6年生に感謝。5年生が2人だけなので厳しいですけど、それを言い訳にせず、またがんばりたいと思います」(戸塚監督)
全国津々浦々、チーム同士の合併が身近になってきた学童球界の今日。野沢浅間のこの1年は最上のモデルケース、成功例に違いない。基礎動作を自分のものとしながらスケールアップしてきた小山家の三男坊が、自身の大きな夢を果たした暁には、この2023年の偉業もまたクローズアップされることだろう。
現役随一の名遊撃手、源田壮亮(西武)が憧れだという
(動画&写真&文=大久保克哉)